ウチの犬の中の一匹、アトラスは4歳になる今でも甘噛みが大好きです。私とのコミュニケーションにおいて、甘噛みは大事なものとなっています。もちろん、加減ができる甘噛みです。
子犬たちの母親であるフーラも、やはり子犬のころ甘噛みが大好きでした。ほかのオス3頭が子犬のころよりもすごかったので、驚くほどでした。フーラの場合には、私は叱らずにとことん甘噛みから逃げていました。ぬいぐるみを大小混ぜて3つ、ボールを3つ用意して、フーラが暇にならないように、噛まれないようにうまく逃げながら、一生懸命遊びました。
おもちゃを使って遊んでいるのに手を噛んでくるのは、おもちゃの
動きがつまらないからです。子犬は「その遊びはつまんないから、甘噛みごっこをしようよ!」と誘ってくるのです。子犬を楽しませることができるよう、がんばって遊んであげましょう。
甘噛みは、子犬の問題行動の代表格になっているようですが、どんなに甘噛みで困っている飼い主さんでも、おやつを使ったトレーニングを始めると、ほぼ100%甘噛みされません。子犬は「どうしたらおやつを食べられるだろう?」と必死で頭を使っているので、甘噛みする暇がないのです。甘噛みより楽しいことがあれば、甘噛みはしないのです。
14年前に『ロック』とコタロ-を飼い始めたころ、「甘噛みはいけない」という考え方がしつけの常識でしたので、させませんでした。なのでこの2頭は甘噛みをしなくなったのですが、ロックが8歳のとき、彼の「犬生」で1度だけ甘噛みをしたことがありました。それは、珍しくハウスから出して留守番をさせ、帰ったときのことでした。ロックは喜びを全身で表し、うれしそうに甘噛みしたのです。犬は最高にうれしいときも甘噛みをするのだと感じました。
アトラスが私の手を甘噛みしているときの様子を見ていて、なんだか気持ち良さそうだなあと思っていたのですが、ちょうどそのころ読んでいた畑正憲さんの著書『ムツゴロウの動物交際術』に、動物の愛撫の仕方、愛撫の受け方が書いてありました。大変共感しましたので、引用させていただきます。
「しかし、動物のコミュニケーションは、もうすこしワイルドであり、前歯で噛んだりする鋭角的な接触が含まれている。中途半端ではなく、だから思いきって強く愛撫した方がいいことが多い」
動物との間に信頼関係が出来上がったら、動物は親愛の情を込めて前歯や牙を使うことがあるということですね。そして、それを受けてやったり返してやれたら、もっと親しくなれるんだろうなと感じています。だから犬に噛みつけ、ということではありませんが。
かのイアン・ダンバー博士(獣医師、動物行動学者)も「甘噛みをさせないと、いざ本当に噛んだときにどのくらいのダメージを相手に与えるか予測できないので、まったくやめさせるのではなく、加減を教えることが大事だ」と言っています。
甘噛みはいけないと言われていたころは、「やめさせないと本気噛みにつながってしまう」という考え方がありました。私はこれにも疑問を感じていました。わが家の犬たちと付き合ってきて、甘噛みと本気噛みがつながっているとは思えなかったからです。
そして、その考え方を裏付けてくれたのが、テンプル・グランディン氏(動物科学博士)の著書『動物感覚Iアニマルーマインドを読み解く』です。
グランディン博士によると、攻撃を司る脳の回路は、遊びを司る脳の回路とは別にあるそうです。時には大はしゃぎが本物のケンカになることもありますが、脳の中では「荒っぽい遊びと本物の攻撃はまったく別物」ということでした。甘噛みは本気噛みにつながらない、ということではないでしょうか。
というわけで、私は、甘噛みをやめさせるより加減を覚えさせたほうがいいと考えていますが、残念ながら、それはすべての犬に当てはまることではありません。犬種や性質によっては、大けがをする事故につながることがありますので、自分の愛犬に不安がある方は、ぜひプロのドックトレーナーに相談してください。